持ち家について考える――「住む場所」を持つということ
不動産の仕事をしていると、「持ち家を買った方がいいですか?それとも賃貸の方がいいですか?」という質問をいただくことがあります。
私は不動産会社を経営していますので、当然、住宅を購入することのメリットもデメリットも理解しています。
今回は、少し違った角度から「持ち家」について考えてみたいと思います。
きっかけになったのは、弊社が所有している賃貸物件に入居していただいた、ある方のことです。
70歳代・単身・生活保護の方に入居していただいた話
弊社の賃貸物件に、70歳代の独身男性の方が入居されています。
生活保護を受給されており、身寄りもありません。
私は、賃貸オーナーとして「高齢だから貸したくない」とはあまり考えていません。
生活保護を受給されていることについても、それだけを理由にお断りする考えはありません。
ただ、賃貸オーナーの立場からすると、高齢の単身者の入居について心配される方がいることも理解できます。
その大きな理由の一つが、孤独死です。
年齢だけでは分からない「孤独死」のリスク
孤独死というと、どうしても高齢者をイメージしてしまいます。
しかし、先日、知り合いの不動産業者から、50歳代の入居者が孤独死されたという話を聞きました。
発見されるまでにかなりの時間が経過していたため、異臭の問題なども発生したそうです。
当然、通常の退去と比べれば、原状回復や特殊清掃などの費用も大きくなる可能性があります。
また、物件を将来売却する場合には、死亡の事実や発見までの経緯などについて、どのような説明が必要になるのかを慎重に確認する必要があります。
以前、別のブログでも人の死について「室内で人が亡くなった不動産は安くしか売れない?」というテーマで書きましたが、賃貸オーナーとしては、できればご親族が近くにお住まいの方に入居していただきたいと思うこともあります。
これは、高齢者だからということではありません。
「万が一のときに連絡できる人がいるか」
ということは、賃貸経営をする上で一つの安心材料になるからです。
それでも、なぜこの方に入居していただいたのか
では、なぜ弊社はこの70歳代の男性に入居していただいたのか。
一つは、家賃保証会社の商品で、一定の条件のもと原状回復費用などを補償する仕組みに加入していただけたことです。
もちろん、これですべての費用が補償されるわけではありません。
万が一の場合、最悪のケースでは補償だけでは足りない可能性もあります。
それでも入居していただくことにしたのには、もう一つ理由があります。
仲介していただいた不動産会社が以前から付き合いのある会社で、
「ここしか入れるところがありません。助けてください」
という言葉があったからです。
不動産は、数字だけで判断できないことがあります。
もちろんオーナーとしてリスクを考えることは大切ですが、住む場所を必要としている方がいることも事実です。
今回のケースでは、リスクを理解した上で、できる限りの対策をして入居していただきました。
賃貸オーナーをしていると、いろいろな確認があります
賃貸物件を所有していると、仲介会社から入居申込をいただくたびに、いろいろな確認があります。
「60歳の単身の方ですが……」
「ペットを飼っていますが……」
「生活保護を受給されていますが……」
「海外出身の方ですが……」
「シングルマザーですが……」
などです。
もちろん、すべてのオーナーが同じ考えではありません。
物件によっても、オーナーによっても判断は違います。
しかし、こうした相談を受けるたびに、私はふと思うことがあります。
もし自分自身が持ち家を持っていたら、年齢を重ねたときの「住む場所」の不安は少し違うのではないか。
ということです。
持ち家があれば「住む場所」を確保できる
もちろん、持ち家を持っていれば何も心配がないという意味ではありません。
固定資産税もかかります。
修繕費も必要です。
住宅ローンが残っていれば返済も必要です。
立地によっては、将来売却しにくい物件もあります。
それでも、自分が住む家を所有しているということには、一つの大きな意味があると思います。
「少なくとも、住む場所をどうするか」という問題に対する選択肢を持てることです。
将来、介護施設などに入る必要が出てきた場合でも、自宅を売却して資金にするという選択肢があります。
もちろん、すべての住宅が資産価値を維持できるわけではありません。
それでも、立地や物件をしっかり選んで購入すれば、
「住む」
「貸す」
「売る」
という複数の選択肢を持てる可能性があります。
これは賃貸にはない、持ち家の一つの特徴だと思います。
ただし、生活保護の場合は別の考え方も必要
生活保護を受給する場合、資産の保有については一定のルールがあります。
そのため、「持ち家があれば誰でも生活保護を受けながらそのまま所有できる」という単純な話ではありません。
一方で、居住用の不動産については、その人の生活状況や資産価値などによって取り扱いが異なる場合があります。
このあたりは個別判断になりますので、生活保護を受給している方や、将来その可能性がある方は、自治体や専門家に確認する必要があります。
ここで私が言いたいのは制度の話だけではありません。
「年齢を重ねたときに、自分が安心して住める場所をどう確保するのか」
ということです。
弊社の賃貸物件を自分なら買うか?
今回の物件は、23㎡程度の2Kです。
一人で住むのであれば、少し広めのワンルームくらいの感覚で使えると思います。
ただ、二人で暮らすとなると、少し狭いのではないかと思います。
もし私自身が購入する立場であれば、この広さの物件を自宅として購入するかというと、おそらく購入しません。
このように、賃貸として貸す物件と、自分自身が住むために購入する住宅では、考え方が違います。
だからこそ、持ち家を購入するのであれば、自分が将来どのように暮らすのかを考えて物件を選ぶことが大切だと思います。
50歳代になると住宅ローンにも変化が出てくる
持ち家について考えるとき、もう一つ考えておきたいのが住宅ローンです。
住宅ローンは、年齢が上がるほど借入期間を長く取りにくくなります。
また、団体信用生命保険の加入条件なども関係してきます。
このブログを書いている時期は金利も上昇傾向にあり、住宅購入に対して慎重になる方も増えていると思います。
ただ、住宅ローンを35年という長期間で組めるのは、基本的には若いうちです。
長期間のローンを組むことで、毎月の返済額を抑えることができます。
もちろん、無理な借入をすることはおすすめできません。
重要なのは「いくら借りられるか」ではなく、「無理なく返済できる金額はいくらなのか」です。
4,000万円の住宅を5年後に購入するとどうなる?
例えば、4,000万円を金利1.5%、35年ローンで借りた場合、毎月の返済額は概ね12万円台になります。
仮に5年後に同じ4,000万円の住宅を購入するとします。
その時点では35年ではなく、30年のローンになるとします。
同じような毎月の返済額に抑えようとすると、購入時に自己資金を入れる必要が出てきます。
金利などの条件を一定として単純計算すると、約450~460万円程度の自己資金が必要になる計算です。
つまり、
「今は不安だから5年間待とう」
と考えた場合、5年間でそれだけの資金を準備できなければ、同じような返済条件には戻せません。
例えば、5年間で約500万円を貯めるのであれば、単純計算で年間100万円。
月にすると約8万3,000円です。
これを家賃を払いながら貯められるかどうか。
ここを一度考えてみる必要があります。
「今買うか、5年間待つか」だけではない
もちろん、私は「今すぐ家を買うべき」と言っているわけではありません。
住宅購入には大きなお金が必要です。
金利も上昇しています。
将来の収入や家族構成も分かりません。
だからこそ、無理をして購入する必要はありません。
ただ、
「いつかは持ち家が欲しい」
「でも、今は不安だからもう少し待とう」
と思っているのであれば、待つのであれば、その期間に何をするのかを考えてほしいと思います。
5年間待つのであれば、5年間でどれくらい貯金できるのか。
年間100万円貯められるのであれば、5年後には500万円になります。
それだけの貯蓄ができるのであれば、5年後に購入するという選択肢もあります。
逆に、家賃を払いながらほとんど貯金ができないのであれば、5年後に住宅ローンの条件が厳しくなったとき、さらに購入が難しくなる可能性があります。
住宅ローンは「負債」でもあり「住居費」でもあり、将来の資産にもなる
住宅ローンには当然、借金という側面があります。
ですから、無理な住宅ローンを組むことは避けるべきです。
一方で、返済していくことで住宅という資産が残っていくという側面もあります。
家賃を支払っても、自分の資産として住宅が残るわけではありません。
もちろん、持ち家にも固定資産税、修繕費、購入時の諸費用などがありますので、「住宅ローン=すべて貯金」という単純な話ではありません。
それでも、住宅ローンの返済を続けることで、将来的に自分の家を所有することになります。
さらに、団体信用生命保険に加入する住宅ローンであれば、万が一の際に残りの住宅ローンが保険によって返済される仕組みもあります。
住宅は「住む場所」であると同時に、将来の選択肢を作るものでもあります。
「あのとき買っておけばよかった」とならないために
住宅を購入するかどうかは、最終的にはご自身で決めることです。
私も不動産会社を経営しているからといって、すべての人に持ち家をおすすめするわけではありません。
賃貸の方が向いている方もいます。
転勤が多い方、将来住む場所を変えたい方、住宅の維持管理をしたくない方などは、賃貸のメリットも大きいと思います。
ただ、もし、
「いつかは自分の家を持ちたい」
と思っているのであれば、先延ばしにするだけではなく、一度ご夫婦で真剣に話し合ってみてほしいと思います。
「今買うのが正解なのか」
ではなく、
「5年後に買うために、今から何をするのか」
を考えてみるのも一つです。
そして、5年後に振り返ったとき、
「あのとき買っておけばよかった」
と思う可能性があるなら、その5年間でどれだけ資金を準備できるのか。
逆に、購入後も余裕を持って生活できるのであれば、住宅ローンを返済しながら、万が一に備えた貯蓄を作っていく方法もあります。
余裕ができれば、繰り上げ返済という選択肢もあります。
「住む場所」は、年齢を重ねるほど大切になる
今回、70歳代の単身の方に賃貸物件を貸したことをきっかけに、改めて「持ち家」について考えました。
若いうちは、
「駅に近い方がいい」
「広い家がいい」
「新しい家がいい」
など、住宅に求めるものがたくさんあります。
しかし、年齢を重ねると、
「安心して住み続けられる場所がある」
ということ自体が、とても大切になってくるのではないでしょうか。
持ち家だから必ず安心というわけではありません。
資産価値の低い住宅を購入すれば、将来売却に苦労することもあります。
だからこそ、購入するのであれば、価格だけではなく、立地・建物・将来の売却可能性まで含めて考えることが重要です。
「持ち家か賃貸か」。
答えは人それぞれです。
ただ、もし持ち家を検討されているのであれば、「今買えるか」だけではなく、「将来、住む場所をどう確保するのか」まで含めて、一度考えてみてはいかがでしょうか。



コメント